判例

S35.05.24 第三小法廷・判決 昭和32(オ)487 家屋明渡請求(第14巻7号1183頁)

判示事項:

請求原因の変更と書面の要否。

要旨:

請求原因を変更するには、書面によつてすることを要しないと解すべきである。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人佐藤義彌の上告理由第一点について。
 原審の昭和三二年二月二〇日午前一〇時の判決言渡調書には「裁判長は判決原本に基き主文を朗読して判決を言渡した」と明記されていること、ならびに記録に編綴された判決書は判決原本ではなく、判決正本であることは所論のとおりである。しかし、判決言渡の方式が民訴一四七条にいわゆる口頭弁論の方式に該当するものであつて、同条は口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によつてのみこれを証することができる旨明定しているから、右調書の記載に反する口頭弁論の方式に関する事実を主張する所論は理由がない(昭和二四年(オ)第二二四号、同二六年二月二二日第一小法廷判決、民集五巻三号一〇二頁)。また控訴審の判決原本は、上告の有無にかかわらず常に当該庁に保存しておくべきであり、上告の提起があつたときは訴訟記録に判決正本を添附して上告審に送付し、上告完結後は第二審裁判所を経由せずに、直接第一審裁判所に返還すべきものであつて、訴訟当事者は必要があるときは、何時でも、第二審判決原本を閲覧することができるものと解するを相当とするから、本件上告記録に原審の判決原本を添附せずに判決正本を添附してあつても、毫も違法ではない(昭和二四年(オ)第七四号、同二五年一月二六日第一小法廷判決、民集四巻一号一一頁)。論旨はすべて理由がない。
 同第二点について。
 本件訴訟記録によると、被上告人の訴訟代理人は、一審口頭弁論期日において、本訴請求は所有権に基くものであると陳述し、更に原審口頭弁論期日において、右請求は使用貸借の終了を原因とするものであると陳述していることが明らかであるから、被上告人は原審において請求の原因は右のように変更したものと解すべきであること所論のとおりである。
 しかし、控訴審においても訴の変更の許されることは明らかであり、民訴二三二条の明文によれば、請求の原因を変更するにとゞまるときは、判決事項の申立である請求の趣旨を変更する場合と異り、書面によつてこれをなすことを要しないと解するのが相当である(大審院昭和一元年九月七日判決、法律新聞四〇三八号一二頁、同昭和一八年三月一九日判決、民集二二巻二二一頁各参照)。それ故に被上告人において請求の原因を変更するにつき書面を提出せず、原審もこれを相手方たる上告人に送達する手続をとるに由なかつたからといつて、原判決には所論の違法があるとはいえない。論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 論旨は、上告人は本件建物に現在は居住していないから、上告人の本件建物についての明渡債務は履行不能となつたものであり、上告人に明渡を命じた原判決は違法であると主張する。しかし、本訴は、使用貸借の終了を原因とする建物明渡の請求であり、使用貸借契約の終了にもとづく明渡義務は、上告人主張のように本件建物から退去した事実があつたとしても、それだけで直ちに履行不能となつたと速断すべきではないから、本件建物の明渡義務の履行を命じた原判決は相当であり、原判決には所論の違法はない。論旨引用の判例はいずれも本件に適切でない。論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   橋       潔
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一